映画『天使にショパンの歌声を』レア・プール監督 インタビュー

繊細かつ温かな人間ドラマの名手として知られ、カナダ映画界を支えてきた女性監督、レア・プール。長編映画監督デビューから35年となる2015年、映像作家として円熟期を迎えた彼女の最新作にして集大成作『天使にショパンの歌声を』(2017年1月14日公開)が完成。監督レア・プールのインタビューが到着しました。
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Q:女性の権利や社会進出など、現代にも通じる物語が描かれています。時代設定として、“静かなる革命”時代のケベックを選んだ理由を教えてください。
A:時代背景は、脚本家のマリー・ヴィアンがカトリック系の学校に通っていたのでその経験が元になっています。自分は、元々スイス出身で25歳にケベックに移住したのですが、ちょうど「静かなる革命」が終わった直後でした。それまで修道会が学校を運営し、シスターたちが教師だったということを知って驚いたものです。だって、皆マリファナを吸っていたし、本当なの?と。それを知らずして行ったので当時はショックでした。これを歴史的な観点で振り返ることに意味があると思いました。政教分離は必然で良い決断だったけど、昔ながらの教え方に良さが無かったのかというとそうではありません。あれはあれで、メリットもあったんだと思います。
Q:“自分らしく生きる”というテーマを体現したシスターたちを描くにあたり、大事にしたことはなんですか?
A:シスターを描くに当たり意識したことは、オーギュスティーヌとシスターがお互いに親密であることです。彼女が中絶をした時には、シスターたちの支えがありました。中絶の後なぜ修道院に入ることになったのかはわかりませんが、母親の命令だったからかもしれない。そして、彼女は外界のことは忘れよう、そして姉妹のことも忘れようと意図的に努めてきたのです。映画の終盤にわかりますが、オーギュスティーヌはちゃんと姉を愛していて、和解を遂げます。最初アリスを連れてきた姉に冷たかったのは、外界との決別を決意していたからなのです。
Q:ショパンの「別れの曲」などのほか、劇中に登場する楽曲に込めたメッセージがあれば、教えてください。
A:選曲にメッセ―ジは特にありません。あまり難解でないもの、表情豊かなもの、そして、正直に言うと私達が好きなものを選びました。この年頃の女の子たちが演奏できて、実際修道会が教えられるものはそう高度なものではないはずなので、親しみやすい楽曲を選びました。
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Q:監督は、以前にも女子寄宿学校を題材にした映画を撮られています。今回、修道院が経営する女学校という場所を、どんなふうに描こうと思いましたか。
A:同じ寄宿学校を描いていても、例えば『翼をください』は女の子たちのラブストーリーで、今回は音楽が主役ですから、同じように並べられません。繰り返しになりますが、私はなんだかんだと10代の女の子と描いてしまうので、『SET ME FREE』は14歳の女の子の話でしたが、今撮っている映画も14歳の女の子が主人公の話です。なんでなんでしょうね(笑)。おそらく女性にとって、少女から大人へ変革を遂げる時というのは非常に大事な時期で、私は今でも興味を掻きたてられてならないのです。精神科医に見てもらわないと分かりませんね。自分にとっても大事な時期でしたし、すべての女性にとってもそうなのだと思います。
Q:衣装や美術などで、特にこだわったところを教えてください。
A:スタッフは昔からよく組んでいる人達で信頼しているので、今回もお願いしました。限りある予算の中でよくやってくれました。コスチュームデザイナーのミシェルはカナダの中でもトップクラスの人ですし、美術監督も優秀な人です。苦労したのは、撮影に使う学校を見つけることでした。数か月かかって、リシュリュー川のほとりにある学校とチャペルを選んだのですが、建物内はグチャグチャだったので使えず、外観のみを使いました。屋内撮影はまた別の学校を探さねばならず、距離が2時間くらい離れた所に見つけることができました。寮のシーンは、ペンキは塗り直したけれど、50年代当時のものをそのまま使っています。今では、当時の建物はどんどん取り壊されて、マンションになったり図書館になったり窓が張り替えられていたりしています。窓が変わってしまうと歴史ものを撮るときは全然違うものになってしまうので難しいんです。今回使用した学校も取り壊される話があったのですが、この映画が撮影されたことで、ひとつの記念になったのではないかと思います。政府主導による取り壊しの動きが強く、ケベックはたった200年の歴史しかないので、保存・保善しようという概念がないんです。
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Q:シスターたちが新しい制服に着替えるシーンがとても印象的でした。シスターが修道服を脱ぐシーンを撮影することに、議論はありましたか?また、どんなことに気を付けて演出、撮影したのでしょうか。
A:大事なシーンなので、ひとりひとりが思いをかみしめながら演じてほしいと言いました。40年間同じ服を着ていてそれを脱ぐわけですから、エモーショナルなシーンなのですが、ケベックにおいては、問題視されたわけではありません。あの当時世の中は変わっていったわけで、その時代の変化に付いて行かねばなりません。ただ、それを良い事と捉える人もいれば、辛いと捉える人もいました。シスター役の1人、ピエレットさんはあのシーンで泣いたそうです。良い涙だと思いますが、彼女の両親はかつて神父とシスターで、政教分離がされた時ローブを脱いでそれをきっかけに結婚したそうです。彼女にとっては感慨深いシーンだったようですね。これを解放と捉える人もいれば、悲劇と思う人もいました。女性にとって修道会というのは安息の場所と捉える人もいて、外界は貧困の地だったり、父親に暴力を振るわれて逃げて来た子もいました。
Q:この映画はフィクションですが、なぜ「学校を救う」というハッピーエンドにしなかったのでしょうか。安易なハッピーエンドでない所がこの映画の長所でもあると思いますが、あえてそうした理由を教えて下さい。
A:それはリアリティを伝えたかったからです。実際、多くの学校が閉校になり、皆すべてを失いました。本当に、スーツケース一つで追い出されたのですから。
Q:今回本作の映画化に当たり、気にされた点、こだわった点などがあればお教え下さい。
A:まず、本物のミュージシャンを使うことです。特にアリス役は。最初はオーディションをしていたのですが、やはりちゃんとピアノが弾ける子でないとダメだと思いました。女優を使用すると後で編集でごまかさないといけなくなるので、映画制作的にも功を奏しました。
2点目は、季節の設定で、冬に始まり春で終わる物語にしました。閉ざされた世界が開かれて、自由に解放されていくという意味を込めたかったのです。
3点目は、シスターたちのキャスティングです。本編の尺もありますし、説明が多くなくて済むよう、もともとキャラが立っている女優をあえて選びました。閉ざされた社会に生きる女性たちの代表となるよう選びました。
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Q:ぜひ日本の映画ファンにオススメのシーンがあれば教えてください。またメッセージがあればお願いします。
A:この映画は“学校”という小さな共同体を描いていて、その中における絆と連帯感が大きなテーマとなっています。政教分離されてしまうけど、こういう教育が教えてくれたものは、絆の強さでした。今はこういう時代ですから、なくなってきてしまっています。もう一つは、音楽教育の重要性です。すべての学校教育で、音楽を4歳から導入すべきだと思います。音楽は、思考を解放するものであり、集中力の鍛錬にもなり、より良い人間を作っていくことにつながります。ケベックでは60年代終盤には、宗教にまつわるものはすべて否定されましたが、それによりもたらされた良いものもあったのです。それを描きたかったんです。
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レア・プール 監督&共同脚本
1979年、長編初監督作『Strass Café(原題)』でキャリアをスタート。その後、『愛の瞬間(とき)』(90)、そしてジニー賞8部門にノミネートされた『Mouvements du désir(原題)』(93)、ベルリン国際映画祭キリスト教徒審査員賞他多くの賞を受賞した『Emporte-moi(原題)』(98)、そして数々の映画祭で上映された『翼をください』で次々と成功を収める。ウィリアム・ハート主演の『天国の青い蝶』(04)では、家族をテーマにしたドラマに初めて挑戦。『Maman est chez le coiffeur(原題)』(08)では、セリーヌ・ボニアーを主演に迎えている。また、ジェミニ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した「Gabrielle Roy」など、TVドキュメンタリー制作にも力を注いでいる。現在、母親受刑者とその子供の現実を追った長編ドキュメンタリー『Double Sentence(原題)』の撮影を終え、カナダ人作家Sophie Bienvenu原作「ET AU PIRE ON SE MARIERA(原題)」の映画化を2017年に控えている。
『天使にショパンの歌声を』
1月14日(土)から全国順次公開

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