- 2026-9-12
- ENTERTAINMENT
- ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?
第83回ヴェネチア国際映画祭で、約8分間に及ぶスタンディングオベーションを巻き起こした『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、現地時間9月11日(金)、同映画祭の「レオンチーノ・ドーロ賞(Leoncino d’oro/金の小獅子賞)」を受賞した。日本作品による同賞の受賞は本作が初となる。

© Kazuko Wakayama
ヴェネチア国際映画祭の最高賞として知られる金獅子賞と同じ“獅子”の名を冠するレオンチーノ・ドーロ賞は、金獅子賞など映画祭本体の公式賞とは別に授与されるコラテラル賞(独立賞)の一つ。イタリア全土から選ばれた18歳の高校生20名が審査員を務め、コンペティション部門の作品から受賞作を選出する賞で、若い世代が選ぶことから、金獅子賞にちなみ、“若者が選ぶ小さな金獅子”として親しまれている。
過去には、パク・チャヌク監督作『親切なクムジャさん』をはじめ、ウェス・アンダーソン監督作『ダージリン急行』、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、ダーレン・アロノフスキー監督作『ザ・ホエール』など、世界的な評価を受けた作品が多数受賞。昨年は、同映画祭で銀獅子賞を受賞した『ヒンド・ラジャブの声』が受賞している。
実際にベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに、「戦争加害者の傷」というテーマに真正面から挑んだ本作。ニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄の4か所で撮影を敢行し、戦争によって生まれる加害者の傷という、これまで十分に描かれてこなかったテーマに迫る、戦争映画の常識をくつがえす衝撃作となっている。
出演は精神科医ニール・ダニエルズ役にアカデミー賞®俳優ジェフリー・ラッシュ、アレン・ネルソン役にブロードウェイ俳優ロドニー・ヒックス、そして、アレンの活動をサポートする日本人・黒井役にリリー・フランキーが出演。ヴェネチア国際映画祭の常連の塚本晋也監督のヴェネチアのコンペティション部門への正式出品は、『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)、『斬、』(18)に続き4回目。世界各地で戦争や紛争が長期化・激化する現在、塚本監督が「世界がますますキナ臭くなってしまっている今、必ず作らなければならない映画」と位置付けた本作を、ヴェネチアの地に送り出した。
受賞が決まった直後の塚本監督から、ひと足先にコメントも到着。今回、若い審査員たちに選ばれたことについて、「(本作は)特に若い人に見てほしいという気持ちが強くあります」とコメント。「若い審査員のみなさんに選んでいただいた、というのは、何よりもうれしいこと」と喜びをにじませ、今回の受賞を胸に「さらに多くの人たちに観ていただけるよう励みたい」と、作品をより多くの観客へ届ける決意を語った。
レオンチーノ・ドーロ賞の選評では、歴史上あらゆる戦争に共通する「無謀な暴力」を描き出す力をはじめ、映像と音響を目まぐるしく交錯させることで、主人公の意識が変化していく過程へ観客を没入させる表現力が高く評価された。さらに、戦争そのものだけでなく、戦争を経験した退役軍人が抱えるトラウマの恐ろしさを告発する姿勢や、戦争を正当化する論理を拒絶するメッセージをあらゆる世代に伝える力についても評価され、今回の受賞に至った。
そんななか迎えた授賞式では、塚本監督が審査員を務めた高校生たちと対面。受賞の喜びを伝える壇上で、塚本監督は「選んでくださった方々を実際に拝見したら、えらく感動して、うれしさがこみ上げました」と、感極まった様子で、改めて大きな喜びを噛みしめた。続けて、「この映画はもちろん多くの人に見ていただきたいんですけど、特に若い人に見ていただきたいと強く思っていました」と改めて語り、これからの時代を担う世代に向けて、「この映画を見て、戦争というのは、とにかく実際に行くとこういうものなんだということをまず分かった上で、議論していただけたら」と自身の願いを明かした。
そして、そんな思いを込めて作った作品が、若い世代の審査員によって選ばれたことについて、「この少し雲行きの怪しい世界で、光がパァーッと射してきたような気がしました」と喜びを表現。最後には「本当に、グラッチェ!」と笑顔で感謝を伝え、会場も温かな雰囲気に包まれた。
授賞式後には、塚本監督が囲み取材に応じ、今回の受賞について改めて心境を語った。審査員を務めた高校生たちを目の前にし、「内側から身震いするような震えが来ました。学生たちに囲まれたとき、(自分が)アレンさんと被って、涙が出てきそうでした」と振り返りつつ、今回の受賞が「未来を担っていく人たちが、この映画を選んでくれたというのは、大きな希望を感じました」と、特別な思いを明かした。さらに、「この映画がもしできなかったら、自分でこの漫画を描くか、一人芝居か何かでアレンさんになって、日本中を回ろうかなと思った」とアレン・ネルソンさんへの並々ならぬ思いも語り、「とにかく、17年前に亡くなったアレンさんがもう一回蘇るということばかりが目的だった」と、その強い使命感を語った。
また、日本の観客に向けては、世界で戦争や紛争が続く現在への危機感を吐露し、「小さい石礫(いしつぶて)ながら投げつけたい」と本作に込めた思いを表現。「戦争の実態みたいなものを、なるべく近い形で知ってもらって、その恐ろしさを感じてもらいたい」と語り、「多くの人に見てもらうっていうのが今、自分の大テーマ」と、より多くの観客に作品を届けたいという強い思いを示した。
戦争を知らない世代が増えていくなか、実際に戦場を経験したアレン・ネルソン氏の証言を通して、「戦争とは何か」を真正面から問いかける本作。“若者が選ぶ小さな金獅子”レオンチーノ・ドーロ賞の受賞は、塚本監督が本作に込めた問いが世代を超えて届いたことを示す、大きな快挙となった。
日本時間9月13日(日)未明には、同映画祭の最高賞である金獅子賞を始めとした主要部門の発表も予定されている。日本映画が最後に最高賞に輝いたのは第54回の北野武監督作『HANA-BI』で、そのとき審査員を務めたのは塚本監督だった。29年ぶりの日本映画の金獅子賞に期待が高まる。
塚本晋也監督コメント全文
この映画は多くの人に見ていただきたいのはもちろんですが、特に若い人に見てほしいという気持ちが強くあります。
このたび若い審査員のみなさんに選んでいただいた、というのは、何よりもうれしいこと。
このことを胸に、さらに多くの人たちに観ていただけるよう励みたいと思います。

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
kino cinéma新宿ほかにて公開中!
(C)Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners (C)Allen Nelson/KODANSHA
